同時接種の安全性モニタリング

ここでは、同時接種の安全性評価について、少し歴史もふまえてさらに詳しく説明していきます。やや専門的でどちらかといいますと医療者向けの記事ですが、もし一般の方でも興味がありましたらぜひ一読ください。

前回の記事では、同時接種は安全であり、日本・アメリカに限らず世界中の国で勧められていることをお伝えしました。さらに、その事実に甘んじず、国として継続して安全性をチェック・モニタリングしていくことが重要だとも述べました。そして、過去の報告で例外的な事例があったことにも少し触れましたが、ここではさらにその点を詳しく解説します。

2010年冬に熱性けいれんのわずかな増加を検出

さて、CDC(アメリカ疾病予防管理センター )は継続的なモニタリングを毎年行っていましたが、ちょうど新型インフルエンザが流行した2009年の1年後、2010年の冬シーズンにおいて、インフルエンザワクチン接種後に熱性けいれんの頻度のわずかな増加を検知しました。1) (アメリカでは週ごとにこうした規定の疾患とワクチンの関係をモニターしており、このCDCのほぼリアルタイムのモニタリングシステムをRCA (Rapid Cycle Analysis)と呼んでいます)。

そのわずかな増加についてのその後の詳しい調査・研究の結果2)、6か月から2歳までのお子さんに、インフルエンザワクチンに加えて、肺炎球菌ワクチンもしくは3種混合ワクチンを同時に接種したさいに、熱性けいれんの頻度の上昇がわずかですが認められました(誤解をさけるために繰り返しますが、あくまでインフルエンザワクチンとの組み合わせを調べており、肺炎球菌ワクチンと三種混合ワクチンを同時に打っても問題ありませんでした)。

リスクとベネフィットを総合的に判断

この調査結果は、その年に迅速に公共の場で報告され、そしてACIP (Advisory Committee on Immunization Practices)というアメリカのワクチンの推奨を執り行う会議(国民のだれもが傍聴でき、透明性が保たれています)によって、安全性についての議論がなされました。最重要の議題は、この当時の結果からインフルエンザワクチンとこれらのワクチンとの同時接種をひかえるべきか否かでした。

少ないリスクであっても、すぐにやめるべきではないのですか?という意見もあるかと思いますが、そうとは一概には言えないのです。なぜなら、打たなかったことへのリスクも考える必要があり、そのリスクとベネフィットを勘案して決める必要があるからです。すなわち、もし仮にインフルエンザワクチンを延期した際に、インフルエンザにかかった場合、高熱にもなりやすいですし、インフルエンザ自体によって熱性けいれんにかかってしまうこともあるのです。さらに悪いことに、インフルエンザになった場合は、熱性けいれんのリスクだけではなく、肺炎や、稀ですがインフルエンザ脳症といったリスクもついてきます。

一方、このワクチン後の熱性けいれんは極めて稀であり、そして基本的に一過性のもので脳に後遺症などは残さないものです。(もちろんそうはいっても、目の前でけいれんしてしまうと親としては恐怖なのでいずれにしても起こってほしくはないものですが。)

以上から、ACIP、そしてCDCは、この研究結果の示すわずかな増加に伴うリスクは最小限であり、打たないことへのリスクを勘案すると、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンや3種混合ワクチンを同時に打つ必要がある際にも、同時接種を勧めるという推奨を当時決定しました。3)

その後の持続的な検出は認めず引き続き同時接種を推奨

そして、その2010-2011年の冬シーズンの後、毎年の安全性チェックのモニタリングを継続していますが、明らかな持続的増加は認めておらず*、追加で行った別のシーズンでの研究でも同時接種による発熱の増加は認めず4)、CDCもアメリカ小児科学会も引き続き同時接種を勧めているという今の流れとなっています。4) (*その後、毎年連続して熱性けいれんが増えているということはなかったということですが、これが毎年流行に合わせてインフルエンザワクチンの成分が変わるからなのか別の機序からなのか、結論はでていません)。

いずれにしても、2010年の3価インフルエンザワクチンと、現在の4価インフルエンザワクチンは同じものではありませんし、その後のCDCの安心できるモニタリングの結果からも、引き続き安心して同時接種を勧めることができます。

情報の透明性と予防接種への信頼

ここまで、細かく解説してきましたが、このようにCDCは、実に細かな安全モニタリングやデータの解釈を行い、総合的に判断してこのような推奨に至っていることを少しでも知っていただきたかったので、あえて詳しい一つの記事として扱いました。こうした流れを包み隠さず透明性をもって情報提供することは、予防接種を信頼していただくうえで必要不可欠なことであると私は考えています。

前回の記事でも述べましたように、同時接種は安全に行えるものです。一方、新しいワクチンもでてきて常に変化のある領域ですので、謙虚な姿勢で引き続き安全性をモニタリングしていくことが重要で、それが我々のような予防接種の安全性を評価する者の役割だと思っています。

参考文献)

  1. Tse A, Tseng HF, Greene SK, Vellozzi C, Lee G; VSD Rapid Cycle Analysis Influenza Working Group. Signal identification and evaluation for risk of febrile seizures in children following trivalent inactivated influenza vaccine in the Vaccine Safety Datalink Project, 2010–2011. Vaccine. 2012;30(11):2024–2031
  2. Duffy J, Weintraub E, Hambidge SJ, et al. Febrile Seizure Risk After Vaccination in Children 6 to 23 Months. Pediatrics 2016;138.
  3. Broder KR, Martin DB, Vellozzi C. In the heat of a signal: responding to a vaccine safety signal for febrile seizures after 2010–11 influenza vaccine in young children, United States. Vaccine 2012;30(11):2032–2034
  4. Walter EB, Klein NP, Wodi AP, et al. Fever After Influenza, Diphtheria-Tetanus-Acellular Pertussis, and Pneumococcal Vaccinations. Pediatrics. 2020;145(3):e20191909. doi:10.1542/peds.2019-1909
  5. Red Book: 2018 Report of the Committee on Infectious Diseases, 31st ed, American Academy of Pediatrics, Itasca, IL 2018.

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