ワクチンの安全性とは?

ワクチンの安全性について解説するにあたり、「そもそもワクチンの安全とは何ですか?」という質問から考えていきたいと思います。以下は、筆者が以前講演で使用したスライドを使って説明していきたいと思います。

理想的には、100%副反応がなく、100%効果のある夢のようなワクチンが作れたら最高なのですが、現実的にはそのようなワクチンは残念ながら存在しません。ですので、ある一定以上の効果のあるワクチンで、かつ副反応が極めて少ないワクチンが、厳しい数々の効果判定と安全性評価の試験をクリアして世の中に提供されます。ここまでクリアするワクチンは、全体のほんの一部に過ぎず、残りのワクチンは基準を満たさないという理由で世に出回ることなくお終いになります。

さて、晴れて世の中に提供されたらそれでめでたしかというと、そうではなく、市場に出回った後も、ワクチンの副反応の報告が増えないか慎重にモニタリングします。そこで、シグナル(有害事象の報告が増えること)が検出されると、本当にワクチンが原因で増えているのか、さらなる調査が行われます(この調査こそが因果関係を証明するうえで、キーとなる過程ですが、このモニタリングの流れはいずれ別の記事で詳しく説明する予定です)。

このように、極めて慎重に、ワクチンの開発から市場に出た後まで、ワクチンの安全性は評価されています。これは、副反応のまったくないワクチンなどないという現実を真摯に受けとめ、かつ感染症の脅威から人々を守るというワクチンの最大の利点を活かすために、極めて誠実なシステムだと考えています。

ちょうど、車の製造・販売・市場後の調査の流れと似ており、販売前には検出されなかった車の不具合も、大量に市場に出回った後に一部の車に発見され、その不具合をリコールという形で対応することと同様のシステムです。しかし、ワクチンの場合は、人が直接受けるものなので、より一層注意が必要だと思います(車も乗る人の安全にかかわるのでそういった意味でも似ているかもしれません)。

では、ワクチンを受けなければリスクはゼロですよね?

と質問が帰ってくるかもしれませんが、人に感染する様々なウイルスや細菌がこの世の中にいる以上、ワクチンを受けないこともまた、リスクを背負っているのです。筆者は、日本にまだヒブワクチンが定期接種として出回る前に小児科医をしていましたが、このヒブという凶暴な細菌に攻撃され苦しむ赤ちゃんたちをみてきました。抗菌薬の投与で、細菌自体をやっつけることができるとしても、このヒブが髄膜炎をおこしてすでにダメージを与えた脳の後遺症は治せないのです。それが、このヒブワクチンが日本導入されて以降、劇的にヒブの感染症が減少し、いまや世界の多くの他の国と同様に稀な病気になりつつあるのは、ワクチンの効果といわず、何と言えるのでしょうか。この効果には世界中の医師が感動したのです。

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上記のグラフはアメリカでのヒブによる髄膜炎が1987年にワクチン導入後に激減したことを示していますが、残念ながら日本では約20年遅れて導入されています。ここで強調したいのは、この21年間、他国ではすでに過去の病気になっていた感染症に、日本の子どもたちはかかり続けていたという事実です。日本での疫学情報では、年間約1000例の子どもたちが細菌性髄膜炎(肺炎球菌によるものも含みます)にかかっていたことを考えると、ヒブワクチンや肺炎球菌ワクチンが日本に認可されるまでのこの数十年で、いったい何人の子どもたちがこの脳の感染症にかかっていたかお分かりいただけるでしょう。このように、残念ながらリスクゼロの世界はなく、ワクチンを受けないことによってもリスクは存在し、そのリスクはワクチンの稀なリスクよりも、えてして高いものなのです。

ワクチンの安全性を議論する際、このゼロリスクの世界はないという前提はとても重要です。そのなかで、きちんと厳正な試験を行いワクチンを審査し、市場に出た後も引き続き安全性を科学的にモニタリングして、ゼロとはいわないまでも限りなくゼロに近い、副反応が極めて稀なものを安全性の高いワクチンといい、そういったワクチンだけが世の中に流通し、今もそっと子どもたちを感染症から守っているのです。

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