新型コロナウイルスワクチンの試験について知りたい その1

現在、様々な新型コロナウイルスワクチンの試験の結果が報告されつつあります。

これらは、おもにPhase 1 trial (第1相試験)の結果なのですが、やはり全世界が注目するコロナウイルスワクチンであるため、こういった普段はニュースにならない初期段階の結果も一般の方々の目に留まります。よって、その数字がいったいどのような具体的な意味を持つのか一般の方々にはイメージがつきにくいかと思いますので、結果の解釈について説明させてください。

まず、結果の解釈のポイントは、ワクチンに対して反応があるということと、安全性に問題があるということとは同じ意味ではないということです (専門的には、Reactogenecity ≠ Safety (ワクチンの反応原性と安全性は必ずしもイコールではない)ということになります)。

さてここで、そもそもワクチンの目的とはなんでしょうか? 

そうです、身体に免疫反応を起こさせて、新型コロナウイルスに対して抗体をつくって感染を防ぐことにあります。反対に、もしもワクチンをうって、身体になーんにも変化や反応が起こらず抗体を作らずじまいだったら、打った意味がありませんね。役に立たないワクチンとなり開発中止になるでしょう。

一方で、危ないワクチンとはなんでしょうか?

それは、ワクチンを打った時に、高い頻度で、非常に強い反応がでてしまうようなワクチンでしょう。強い反応の極端な例を言えば、腕が壊死してしまうなど(そんな反応は見たことありませんが、人間に投与したことのないワクチンを試験するときに絶対にないとはいえませんので。)ですが、こういった反応が打ってすぐに出た場合は、即刻その試験は中止になります。また、そこまで重度でなくても、高頻度で強い反応がでてしまう場合も、危なっかしくて使いものになりません。試験では、反応をグレード順にわけて調べるとともに、重度の有害事象(Serious Adverse Events: SAE)が起きないか、厳密に経過を観察します。

すなわち、身体になにも反応が起こらなくても困るし、反応が強すぎても困るのです。いいあんばいの反応、つまりある程度の頻度ですこし腫れたり赤くなったり、ときどき熱もでるけど(※これらは、からだがワクチンに反応して抗体を作っている証でもあるのです、一方逆に体に自覚症状がまったくないからといって、からだの中で抗体が作られてないということではありません。)、1-2日以内でよくなる許容範囲内の反応で、しかもたくさん抗体を作ってくれる反応がゴールなのです。

こういった反応は、ワクチンの作り方や種類によっても異なりますし、投与量によっても異なります。そのため、それぞれのワクチンは必ずPhase 1の試験を行い、このいいあんばいの反応を起こす安全かつ必要最小限の量を調べる必要があるのです。

さらに重要な点ですが、いくら急ピッチでワクチンの開発、試験が進んでいるといっても、こういった安全性の評価は最重要項目であり、厳格にチェックされています。チェック項目をパスしなければ、すなわちそのワクチンは試験中止になるという状況で治験が行われています。

では、実際の試験結果の解釈(今回はreactogenecityに限ります)に進んでいきましょう。

オックスフォード大学・アストラゼネカが進めている期待のワクチンの第Ⅰ相試験(および第2相試験)の結果が、6月20日にランセットという権威のある学術誌に発表されました。

ここで、67%の被検者の方は、接種部位に痛みがあり、70%の方が体のだるさがあったようです、また、18%の方が38度以上の熱があったようですが、いずれも短期間で改善しています。さらに、本研究はアセトアミノフェン(カロナール)を投与することで痛みや熱っぽさの頻度は減少したことを確認しています。ここで重要な点は、いずれの反応も軽度もしくはあっても中程度のもので、重度の有害事象であるSAEは起きなかったことです。さらに良好な免疫反応も観察できたため、研究グループは、良好な免疫反応(immunogenecity)、許容できる身体反応(reactogenecity)と安全性の確認ができたと結論づけて、次の段階に進めるとしています。

これらの熱や局所反応は、従来のワクチンよりも頻度が多い印象ですが、それでも軽度で短期間でおさまる反応であれば、このワクチンによって、10-20%の方が入院治療を必要とし場合によっては重篤になる新型コロナウイルスの感染が防げるのであれば、十分メリットがあるのではないかと思います。

このリスクベネフィットの物差しは、個人によってさまざまだとおもうので一概には言えませんが、こういった結果を包み隠さず世界に発表して、議論し、上述のような判断を下し、納得して次の段階の試験に進んでいっているのです。

しかし、ニュースなどで、70%もの被検者が痛みを訴えて、だるさや熱もあるという点だけを強調して、いま説明させていただいた全体像を無視した報道があると、さも危険なワクチンのように聞こえてしまい、一般の方々を不必要に不安にさせます。その結果、なんか危なさそうなワクチンだなという不信感をもち、結果、将来的に効果と安全が証明されたワクチンを打たないという行動につながるのは極めて残念だと考えています。

ちなみに、筆者は毎年インフルエンザワクチンを打っていますが、打った日はやはりだるさと、ときどき熱っぽさを自覚します。ですが、寝て次の日には普段通りになっています。これも、第Ⅰ相試験でしたら、だるさあり、熱ありと記録されるでしょう。しかし、すこしだるさなどがでても、自分を守るため、そして自分がこども病院で診療する子供たちを守るためにインフルエンザワクチンを打つのです。

軽度の痛みやだるさなどの反応は、からだがワクチンに”正しく”反応している証拠でもあるということ、そして各ワクチンは試験を通じて極めて厳格に安全性を評価されていることを知っていただき、世界で行われているワクチンの試験を正しく理解する助けになれば幸いです。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中